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   支援としての診断名告知

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注:この記事はよこはま発達クリニック(YPDC)ホームページ http://www.ypdc.net に2004年10月公開された吉田友子の記事に加筆しYPDCの了解のもとこちらに移転したものです。本文および説明文例の知的所有権はペック研究所およびYPDCに所属します。
最近、子ども自身への診断名告知に大きな関心が寄せられるようになっています。
診断名告知は子どもへの一連の支援の中のひとつの過程であって、告知だけを他の支援から切り離して論じることはできないと私たちは考えています。支援者(親・治療者)の診断名告知への誤解は子どもに新たな不利益を与えます。そうした事態が回避されることを願ってこの記事を公開しました。
子どもへの医学心理学教育(診断名告知を含む)はおのおのの支援者が手探りで取り組んでいる状況です。私たちの考え方や実際に用いている説明文例をお示しすることによって、手探りでわが子への説明に取り組む不安な親御さんのお役に立てればというのもこの記事を公開した理由です。

Ⅰ.診断名告知:基本的確認事項

通級に行きたくないといっているから告知して自覚を促してください」
「あんたはADHDなんだから、もっと気をつけなさい!」
「アスペルガー症候群だからって人に譲らないことの言い訳にはならないんだよ!」・・・
こういう診断名の使われ方を私たちは危惧しています。

<1>大人のいうことをきかせるために診断名告知をするのではありません
診断名告知さえすれば、大人の考える「子どもの役に立つこと」を子どもが受け入れるようになるという幻想を捨てましょう。診断名告知は子どもに何かを諦めさせたり大人の言うことに従わせたりするために行うのではありません。そのような使われ方では、子どもは診断名を不愉快の元凶として認識していくでしょう。
診断名を知ったからといって嫌なものは嫌です。子どもが嫌だと思う理由に目を向けて支援策を考えてください。どんなたいへんな状況でも具体的支援で乗り越えていくしかないのです。告知で「一発逆転を狙う」という発想は危険です。

<2>診断名を知ったからといって技術が身に付くわけではありません
「ADHDなのだから気をつけろ」とだけ叱る言葉の中には具体的なアドバイスはありません。あなたは自分が日本人だと知ったことで茶道の達人になりましたか?
単なる根性論に科学的な権威付けをするために診断名を使わないでください。

<3>告知の前提となるのは具体的で正確な評価です
「読み・書き・計算が苦手なわけじゃないし『なんとなくLD』としか言いようがないんです」「こっちの病院では自閉傾向、あっちのセンターではLD。結局のところよく分からないけど『軽度発達障害』なんです」・・・そういう状況を子どもになんと告知すればいいのかと質問されることがあります。でもこの評価では子どもに伝えようがありません。
評価は支援のためにあります。逆に言えば支援に結びつかない評価は価値の低いものです。「なんとなく」「よく分からないけど」という評価では次項Ⅱ「やりようはあるという実感」をわが子にもたせることは困難です。
まずはわが子の得手・不得手とその理由(見方・考え方のクセ)を具体的に見きわめるところからです。子どもの見方・考え方のクセは、親にはあまりにも身近すぎてみえにくいことがよくあります。わが子の考え方のクセを教えてほしいと事前に明確に伝えて、医療機関・療育機関・教育機関(・年齢によっては保健所)での評価を利用してみましょう。
子どもへの告知(医学心理学教育)の最も重要な部分は診断名を伝えなくても進めていけます(次項Ⅱ参考)。特性に合わせた具体的支援から始めてみましょう。
あなたはまだお子さんについて相談できる主治医をもっていない状況かもしれません。親の判断はLDだったけれど医学診断は軽度精神遅滞だった、親の判断はLDだったけれど医学診断は自閉症だった、ということは稀ではありません。子どもに診断名を伝えた後で修正の必要が生じると親子ともども混乱します。診断名を子どもに伝えるのは熟練した専門家(医師・心理士・言語聴覚士・一部の教育家等)の判断を受けてからでも遅くないと思います。

<4>子どもは大人が邪魔をしなければ前へ進んでいく生き物です
赤ちゃんは、這うように、立つように、歩くようにと誰に強制されたわけでもないのに毎日の努力を続けていきます。子どもというのは、本来、誰に言われなくても前へ前へと進んでいく生き物です。大人が邪魔さえしなければ。大人が邪魔し続けて、前に進むことへの希望を奪い去らなければ。
子どもが診断名を言い訳のように使うとしたら「今日のその言動」だけではなくもっと根本的な原因を考えてみてください。その子は言い訳をする以外に自分の心を守る方法を手に入れていないのかもしれません。子どもにも達成可能な、人からも歓迎される具体的な方法を教えてあげてください。子どもの意欲を引き出すのは説得ではありません。達成感です。

<5>私たちが教えているのは「正しいやり方」ではありません。「多数派のやり方」です
自閉症(アスペルガー症候群)やADHDは病気ではありませんから、治す必要はありません。でもそのために不都合が生じないための工夫や努力は大切です。子どもたちにはそうした技術を身に付けて欲しいと、あなたも私たちも願っています。
子どもたちに何かの技術を教える時、私たちは忘れずにいたいと思っていることがあります。あの子たちのやり方は間違っているから正しいやり方を教えるのではない、ということです。自閉症が人口の99%を占める世界があったなら、「2004年8月11日水曜日午後1時36分」じゃなくて「この間」なんて平然と表現するルーズさや、「会話は、興味のある無しにかかわらず、話者に注目して、キャッチボールのように順繰りに話すべし」なんて変なこだわりは、きっとあきれられてしまうでしょう。
私たちの教えているのは「多数派のやり方」です。
あなたたちの感じ方ややり方もひとつの真実でしょうけれども、みんなの暮らしやすさのために多数派のやり方に合わせるワザを使ってね、ということなのです。
具体的に教える技術は同じでも支援者が「間違っているから正す」という気持ちなのか「多数派のやり方を使ってね」という気持ちなのかの違いは大きいものです。

Ⅱ.診断名告知が支援となるためには、その前段階の支援が最重要
まず支援者が子どもに伝えるべき事柄は個々の具体的な困難への対処方法です。その方法は子どもにとって実践可能で、かつ有効なものでなくてはなりません。あなたの手助けによって/自分の工夫によって、毎日の暮らしが安定したものになっていく。嫌なこと・困ることは、やりようで変えていけるのだ。こうした経験を子どもにもたせることから告知(医学心理学教育)は始まります。
自閉症の特性は不都合の原因となる場合も多いものですが、人間としての長所でもあります。例えば、興味が偏るといえば欠点ですが、自分の好きなものにはとことん集中でき探究心も高いと表現すれば長所です。自分の特性が長所でもあるという実感も診断名告知の前段階として是非伝えていきたい事柄です。毎日叱られてばかりの暮らしの中で取ってつけたように誉められても子どもはそれを信じられません。つまり「自分の特性は長所でもある」という認識は「やりようはある」という実感と不即不離のものなのです。
やりようはあるという実感・長所でもあるという実感を、毎日の生活の中で、個々の具体的事柄に関して積み重ねていくこの第一段階が、子どもへの医学心理学教育の基盤をなすものです。この段階を子どもに充分に経験させるためには支援者に技術力が必要です。この段階では診断名の告知は必要ではありません。この具体的対応を教える段階を充分に経験しているか否かが、診断名告知が支援となるか宣告となるかの分かれ目です。

Ⅲ.もし今の暮らしがⅠ、Ⅱの内容とは程遠いなと感じたら
あなたにも支援者が必要です。
親だからわが子に合った育児ができて当たり前、なんてことは絶対にありません。あなたの子どもが自分の良さを発揮するために特別な工夫を必要としているように、特別な工夫を必要とする子どもを育てるあなたにも特別な工夫が必要です。あなたの子どもがその工夫のために支援者を必要としているように、あなたもまた支援者を必要としています。
まずは日本自閉症協会本部の掲示板を覗いてみましょうか。あなたに必要な情報が見つかるかもしれません。もちろん協会への入会もお勧めします。協会では専門家による相談を会員に対して無料で提供しているそうです(電話または面談、予約制)。
社団法人日本自閉症協会 http://www.autism.or.jp/autism/7-index.htm
もしあなたの地域を担当する自閉症・発達障害支援センターが設置されているなら(2005年3月時点で全国に23か所)、そこにも連絡を取ってみることをお勧めします。

Ⅳ.診断名告知の実際
では診断名の告知はどのように進めていったらよいのでしょうか。
それを具体的手順としてここに記載するのはとても難しいことです。
その理由のひとつは診断名の告知はとても個別性が高い(子どもによって、家庭によって、最善の時期ややり方が異なっている)ことです。私たちは、子どもへの療育(広い意味で)・親御さんへのバックアップ・環境へのアプローチの3つを検討しながら最善の時期と方法を探っています。現時点での私たちの診断名告知実施の目安は、私たちの講演会や「高機能自閉症スペクトラムを持つ子どもへの医学心理学教育―診断名告知の位置づけとその実際―」(吉田友子、発達障害研究 第26巻3号p174~184、2004年)などの文献をご参照ください。
小学生への診断名告知は私たちにとっても手探りの作業です。子どもたちから毎年新しいことを教えられ私たちの検討も少しずつ深まりバージョンアップし続けています。診断名告知に積極的に取り組んでいる専門家の中でも意見はいろいろです。幼児期からできるだけ早く診断名告知をしたほうがいいという専門家もいれば、問題が噴出しているときこそ診断名告知の好機だという専門家もいます。おそらくは、どれが正しくどれが間違いということではなく、それぞれの専門家のバックグランドの違いを反映しているのだろうと思います。つまり、診断名告知の位置付けや精神療法にかんする立場、子どもや地域とのかかわり方などの違いです。
だからもしあなたが担当の先生から別の時期や別のスタイルの診断名告知を勧められても、この記事と違うということだけで動揺する必要はありません。あなた自身の疑問点を主治医に確認するための手がかりとしてこの記事を使ってください。
もしあなたが相談できる担当者をもたずに子ども自身への診断名告知に悩んでいるとしたら、この記事に書いたようにまずは具体的対応で生活の安定と子どもの自尊心を回復させる作業から取り組みなおすことをお勧めします。そして、繰り返しになりますが、是非あなたが相談できる相手や場所を見つけてください。子どもへの診断名告知にかんする全ての判断をあなたひとりが引き受けていくというのはとても荷の重い(結果として先延ばしになりがちな)作業だからです。
進む先をイメージしていただくためによこはま発達クリニックで実際に用いている告知文例を4つ公開します。告知では適応判断(今が伝えどきなのかどうか、わが子にはこの伝え方があっているのかどうか)がとても重要です。誰かと(できれば専門家と、少なくともあなたのパートナーと)その点について相談の上で活用を検討してください。
また文字情報を処理する能力が相応に高い子どもで、診断名に関してもしかしたら既に知っているのかもしれないと思われる場合や混乱なく受け止めるだろうと予測される場合には「あなたがあなたであるために」(「研究所関連書籍」参照)を活用することもあります。再診で質問を受けるからと伝えてもらって数日前にご家庭で渡してもらう方法です。自閉症スペクトラムの子どもたちは自分のペースで文字情報を手がかりに情報処理をしたほうが理解も納得もしやすいからです。またイマジネーションの特徴のために一度思い込んだ事柄を修正するのが苦手な子どもたちなので、その意味でもひとりでじっくりと情報で吟味することが有効な場合が多いからです。
ですから本を渡してもらう場合には、今、目の前で読めと迫ることはしないでもらいます。自分のペースで情報処理することが妨げられてしまいますし、動揺するかもしれない情報と家族(他人)の前で向き合えと迫ることは子どもの状況によってはとても残酷なことだからです。
また情報を渡す際には、ネガテイブな感想も含めいろいろのことを思ったり話し合ったりすることはタブーではないというメッセージも必ず伝えます。

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    自閉症
アスペルガー症候群
「自分のこと」のおしえ方
-診断説明・告知マニュアル-

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  高機能自閉症
アスペルガー症候群
 「その子らしさ」
  を生かす子育て

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あなたがあなたで
あるために―自分らしく
生きるための
アスペルガー症候群ガイド

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